東京藝術大学
国立大学法人 東京藝術大学 美術学部 建築科 金田研究室
〒110-8714 東京都台東区上野公園12-8 Website
レーザー加工機の用途
- 課題・ワークショップの作品、および模型制作、成果品のジグ制作など
- 研究プロジェクトの模型制作(対象者:東京藝術大学の学生、修士生、研究生、大学関係者)
使用機種
- Trotec Speedy 100 & 300 レーザー加工機
- Atmos Mono 集塵脱臭装置
レーザーカッターは、設計者にとって 実際にものづくりができる大事なワンステップ
東京藝術大学の金田研究室では、2013年頃から課題制作のデジタルツールとしてトロテックのレーザー加工機を活用しています。
教育現場でのレーザー加工機について、同学美術学部建築学科の金田 充弘(かなだ みつひろ)准教授と博士課程在籍の砂山 太一(すなやま たいち)氏にお話しを聞きました。
大学でレーザー加工機の需要が急速に高まった理由は?
【金田准教授】一つは、基本的にデジタルでモデリングができないと、デジタルでアウトプットすることはできません。したがって、それをモデル化するというスキルが1段階必要になります。そのスキル習得ためにレーザーカッターをはじめとするデジタル工作機械が大学で採用されるようになりました。
2つ目は、学生のデジタルツールに対するリテラシーが圧倒的に上がったからです。デジタル工作機械は、コンピューターやデジタルなことが得意で好きな人が使う特殊なツールから、普通のツールになったと思います。つまり、デジタルツールを導入する側と使う側、その両方の概念がここ数年で急速に変化したからでしょう。
レーザー加工機はどのように使用されていますか。
【金田准教授】機器の使用は主に修士生や研究生を対象としていますが、学部1年生のユニット課題、学部2年生の加工課題(実寸モデル)、学部4年生の設計課題(縮尺モデル)の履修者にも新しいデジタルツールのひとつとして、レーザーカッターが使われています。
【砂山氏】レーザーカッターは、海外の美術系大学ではスタンダードツールになっているので、藝大の学生たちも当たり前のツールとして、プリンター感覚で便利に使っています。授業では、CADで設計し、3Dソフトで生成した展開図をレーザーで切っています。加工レイアウトの作成には、ネスティングと言って、材料にパーツが無駄なく収まるように、パーツをきれいに並べるソフトウェアを使ったりもしています。
実際、授業にレーザー加工機を採用してどうですか。
【金田准教授】課題の成果物の精度、Before & Afterが全然違います。レーザーカッターなら、同じユニットを使って、精度よく繰り返しつくれます。生産性も含めて、手作業ではどうしてもできないところが実際につくれる。実際につくれることによって課題が見つかったり、新しいデザインのヒントが生れたりします。
建築は本来、実物が大きいので、検討段階では縮小モデルからフルスケールのモックアップまでつくります。つまり小さいものから大きい空間まで、設計者が実際にものをつくりだせるということは大事なワンステップです。この一歩を踏み込めるかどうかは、もののクオリティをかなり左右するでしょう。
【砂山氏】トロテックのマシンは、精度が良くて速いです。故障もほとんどありません。また、トロテックの(室内設置型)集塵機はすごいです。全然臭いがしない。アクリルを切るときは臭いがきついので集塵機を使っています。
学生や作品への影響はどうですか。
【砂山氏】以前は無垢材とか、ボリュームで作品をつくることが多かったのですが、現在は、レーザーで切りやすいのでMDFや板材をメインで使うことが多いです。他にもCNCなどの加工機がありますが、レーザーの利便性や速さを考えると、学生も限られた時間の中で制作しなければないないので、レーザーを使った作品に益々終局していく傾向はあります。
【金田准教授】スタディも作品づくりもスピードがすごく大事です。レーザーカッターでカットして組み立てるスピードと、3Dプリンターでつくりだすのと、CNCで削りだすのと、全くスピード感が違うと思います。同じ組立てられるユニットをつくるにしても、ソリッド(立体)のものから削りだすのか、平面のものから切り出したものを組み合わせるのか、どちらも建築的にはチョイスがありますが、それが速いというのは学生にとっても重要です。
未来のデジタル・ファブリケーションについて
【金田准教授】藝大では漆を使ったレーザー加工のワークショップ*を行っています。日本ならではの使い方を、特に伝統的な素材感を、日本のデジタル・ファブリケーションでは大切にしていくべきだと考えています。
また、建築というのは、設計と施工が職能として分かれています。レーザーカッターは、設計者がものをつくる方向に踏み込むためのツールなので、設計者として実際につくるということにどのように近寄っていけるのか、それに関わる大きなポテンシャル(可能性)を持っていると思います。
将来、例えば、デジタルツールでデザインしている段階で、設計しながらこれがいくらでつくれるかが積算できる。つまり、デジタルツールがこれからの生産体系を変えるくらい、つくる方のパラダムシフトになっていくと面白いと思います。
*漆のワークショップ
金田研究室では、「デジタル・ファブリケーションによる乾漆の照明」をテーマに、乾漆シートという新しい素材から「影をデザインした照明」を制作するワークショップを実施しています。
乾漆シートは、漆を塗った塩ビ板に寒冷紗(かんれいしゃ)という布を貼りつけて、さらにその上から漆を塗り固めるという日本の伝統技法によって作成します。その硬い素材をレーザーカッターでカットしてランプシェード(照明)を組み立てます。
伝統的な素材とデジタル・ファブリケーションの融合に新しいアイデアを発見し、作品として表現することが本ワークショップの目的です。