レーザー技術の歴史

レーザー技術の原点には、物理学者・アルバート・アインシュタインの存在が深く関わっています。20世紀初頭、アインシュタインは、光の性質について詳しく研究する中、光が「エネルギーを持つ粒子」としてふるまう可能性があることに注目しました。これは、すでに知られていたプランクの量子仮説に基づくものでした。
この考察から生まれた「誘導放出」の原理によって、アインシュタインは、現在のレーザー技術の基礎を築きました。しかし、物理学者のチャールズ・タウンズが、この理論を実際の技術として応用するまでには、さらに40年以上の歳月を要しました。誘導放出とは、レーザーの活性媒体に光を当てることで、一時的にエネルギーを蓄える現象を指します。蓄えられたエネルギーは強制的に取り出すことができ、その結果、レーザービームが増幅されます。
メーザーからレーザーへ
アインシュタインの理論に基づき、タウンズは1940年代後半から電磁波の実験を行い、1951年には誘導放出によって電磁波を発生させ、増幅させる装置を構築し、自身の発見に「メーザー」という名称を与えました。これは「誘導放射によるマイクロ波増幅」(Microwave Amplification by Stimulated Emission of Radiation)の英語の頭文字から作られた略語です。「電磁波で誘導放出による増幅が可能であるならば、赤外線や通常の光でも可能であるはずである」。波長が短くなればなるほど、レーザーの製造コストが大幅に増加することを考えると、これは理にかなっていると言えます。
レーザーの構築に必要な材料はすでに特定され、調達も可能でしたが、「誘導放出による光増幅」の原理に基づき、レーザーが実用化されるまでにはさらに数年を要しました。1960年になってようやく物理学者セオドア・メイマンが、フラッシュランプとクロムを添加した合成ルビー、金属スリーブを用いて世界初のレーザーを完成させました。しかし、この発見は当初は注目を集めず、メイマンが研究成果を学術誌に投稿した際、編集者に掲載を拒否されてしまいます。コヒーレント光ビームを高色純度で制御する技術は、当時の専門家にはほとんど関心を持たれず、実用性がないと考えられていたのです。
レーザー技術の可能性が明確になったのは、長い歳月を経た後のことでした。現在では、さまざまなレーザーシステムが実用化されておりますが、そのすべてが、アインシュタインが1917年に提唱し、メイマンが1960年に実証した原理に基づいています。
1960年代以降のレーザー技術の進化
レーザー技術の原理が解明されると、開発は一気に加速し、早くも1961年には、米国の眼科でルビーレーザーが使用されるようになりました。特にレーザー技術は医療分野では重宝され、低侵襲手術の時代へと向かっていきます。

1962年、米国で半導体レーザーの研究が始まりました。この超小型レーザーは連続運転が可能で、電子機器への組み込みも容易でした。1964年には、クマール・パテル氏が高出力のCO₂(炭酸ガス)レーザーを発明し、産業用途に道を開きました。以来、金属の切断、穴あけ、マーキング、溶接などに広く活用されており、50年以上経った今も現代の生産に欠かせない技術となっています。
1966年には色素レーザーが開発され、蛍光色素のスペクトルに沿ったレーザー光の波長を自由に選択できるようになりました。以来、色素レーザーは主に分光学で使用されています。
レーザー技術の普及
半導体レーザーの発明により、レーザー物理学はついに大衆市場に普及します。例えば、今ではほぼ見かけなくなりましたが、CDやCD-ROMは1972年以降に開発されました。1980年代から、レーザーダイオードと光ファイバーを組み合わせたフォトニクス技術が大量生産に適用され、現在では高速インターネット通信を支えています。
1998年には、レーザーダイオードのサイズが発する光の波長を下回るほど小さくなり、その結果、ナノレーザーが誕生し、データ処理や医療、光通信などで活用されています。
現在のレーザー技術の活用
医療分野では、レーザーは腫瘍の除去や、剥離した網膜の固定、静脈瘤の治療などに活用されています。特に、レーザー誘発性温熱療法では、腫瘍組織を加熱して除去するなど、さまざまな治療に役立っています。
美容業界でも、レーザー技術は入れ墨の除去や永久脱毛などに幅広く活用されています。レーザーによる入れ墨の除去は、高い熱放射を伴い、顔料が熱で分解される際に生じる化学反応の副産物が体に影響を及ぼすリスクがあるものの、この方法は広く普及し、標準的な治療法となっています。
トンネル建設では、レーザー装置が精密なビームを照射し、掘削機が高い精度で掘削できるようサポートします。
レーザー加工機の幅広い汎用性
レーザー技術は私たちの日常生活のさまざまなシーンで活用されています。例えば、レーザー光線は、CDの書き込みや紙への印刷、店舗レジでの商品のスキャンなどにも使用されるほか、レーザーポインターとしてプレゼンテーションのサポートや、距離の測定などにも重宝されています。
産業分野では、金属の穴あけ、切断、マーキング、溶接などに使用されています。レーザーは、旋盤加工やフライス加工などの従来の加工方法では加工が難しい複雑な形状でも、高い精度で加工することができます。
研究分野でも、レーザーは質量分析で原子や分子を高エネルギー状態にする際や、大気の研究などに活用されています。
レーザーを利用したエネルギー生産の研究も進められています。特に核融合の分野では、高出力レーザーによって粒子密度と温度が100万度に達する高密度プラズマの生成が可能になりました。しかし、安定した核融合の実現にはなお課題が多く、具体的な実用化の時期は見通せていません。