ファイバーレーザーの機能・用途
ファイバーレーザーは、増幅媒質に光ファイバーを使った固体レーザの1種です。レーザー活性媒体はガラスファイバーの内部断面であり、希土類元素(イッテルビウムなど)ドープ(添加)されています。

ファイバーレーザーは、レーザーダイオードによって励起され、その光(波長915nmまたは977nm)が光ファイバーを通じて添加ガラスファイバーへ伝送されます。光ファイバー同士は、ガラスを溶接する形で接続されているため、通常、ポンプ光やレーザー光が空気中を伝わることはありません(図1参照)。この構造により、ファイバーレーザーは汚れや振動の影響を受けにくいという特長があります。ポンプダイオードは互いに空間的に離れており、それぞれに独自のヒートシンクが備えられているため、耐用年数が長くなります。レーザーパルスのピーク出力を約10~20kW以下に抑えることで、全体的な耐用年数は数万時間にもなります。ファイバーレーザーには、連続発振型(cw=連続波)とパルス発振型がありますが、マーキングや彫刻の用途には、パルス発振型の方が適しているため、下記ではパルスファイバーレーザーについて解説していきます。パルスの持続時間は通常100ナノ秒前後ですが、数ナノ秒以下の短いパルスも生成可能です。ただし、その場合、パルスエネルギーは大幅に低下します。
MOPA方式のパルスファイバーレーザーは、主発振器(シードレーザー)と ファイバー結合のパワーアンプ で構成されています。主発振器には、平均出力が数ミリワットから最大約150mWのダイオードレーザーやチップ上に形成されたレーザーが使用されます。このレーザーは、特定のパルス形状を持つ光を発生させます。チップ上に形成されたレーザーでは、レーザー活性媒体・反射器・その他の光学部品 が 単一のチップ内に統合されており、一体構造(モノリシック構造)となっている場合もあります。
増幅器はイッテルビウム添加ガラスファイバーで構成されており、ファイバー結合ポンプダイオードを通じてエネルギーが供給されます。レーザーパルスを発生させる際は、まずポンプダイオードがアンプファイバーにエネルギーを蓄積(反転分布の形成) します。その後、自然放出によるエネルギー損失が起こる前に、シードレーザーがパルスを発し、そのパルスがファイバーを通過する間に数百倍から千倍に増幅 されます。この増幅はシングルパス方式で行われます。また、ファイバーはコイル状に配置されることが多く、小型ながら広い増幅範囲と高い利得を実現できます。

主な用途
マーキングや彫刻に使用されるファイバーレーザーのパルスピーク出力は、通常10kW~20kWで、平均出力は10W~100Wです。ビーム品質が高く集光性に優れているため、微細なデザインの彫刻や高解像度のマーキング、画像のマーキングに適しています。
ファイバーレーザーのメリット
使用されているガラスファイバーは表面積が大きく、体積が小さいため、効果的な冷却が可能であり、コンパクトでメンテナンス不要の構造を実現しています。また、電気から光への変換効率が20%以上と比較的高く、エネルギー消費が少ないため、廃熱も抑えられるのが特長です。その結果、同様の用途に使われる従来のYAGレーザーと比べて、長期的な運用コストを大幅に削減できます。
ファイバーレーザーのデメリット
パルスピーク出力が30~100kWのYAGレーザーと比較し、ファーバーレーザーは10~20kWと低く、パルス持続時間が長くなります。これは、一部のプラスチックへのマーキングや、金属の深彫り彫刻においては、品質面で不利な点となります。
ファイバーレーザーのピーク出力は、使用されるガラスファイバーの断面が小さいことによって制限されます。短いパルス幅で高いパルスエネルギーを持つパルスを生成すると、ピーク強度が高くなります。しかし、これがファイバーの損傷(カラーセンターの形成)を引き起こす可能性があります。
まとめ
近年、パルスファイバーレーザーは従来のYAGレーザーに代わる選択肢として普及しつつあります。これは、ファイバーレーザーがコンパクトで頑丈な構造を持ち、冷却が比較的容易であることに加え、長寿命で総所有コストが低いという利点があるためです。また、ファイバーレーザーの製造工程には、電気通信業界の技術が応用されています。例えば、2本のガラスファイバーの端面を溶接する「スプライシング」 もその一例です。この工程では、接触面の高い純度と低減衰が求められます。