DCレーザー管・RFレーザー管の技術的な違い
さまざまな種類のCO2レーザーについて解説します
CO2レーザーの導入を検討する際には、直流(DC)方式と無線周波数(RF)方式の違いを理解することが重要です。それぞれにメリットとデメリットがあり、価格にも大きな差があります。下記では、DCレーザーとRFレーザーの違いについて、メリット・デメリットの比較や適切な選び方について分かりやすく解説しています。
DCレーザーとは
DCレーザー光源は通常ガラス製のレーザー管に収められています。このガラス管内には、以下のような複数のガスが混合されています。
- 窒素:ガス混合物の大部分を占める
- 二酸化炭素:レーザー発振の主な媒質
- ヘリウム:熱を効果的に放散する役割
- 水素・キセノン
レーザーを動作させるには、管内の電極に高電圧をかけ、電流を流す必要があります。この電極は、ガラス管の外部から内部へと電気を通す「フィードスルー」として設計されています。しかし、このフィードスルーはレーザー管の弱点となることがあります。特に温度変化によって、レーザー管の密閉性を維持することが難しくなるのです。温度が上昇すると金属がガラスよりも大きく膨張するため、接合部に大きな圧力がかかり、その結果、シール部分が劣化し、冷却時(熱負荷サイクルを繰り返した後)にガス漏れが発生する可能性があります。
レーザー発振のプロセスでは、電流が流れることで窒素が励起されます。これは、レーザービームを生成する最初のステップであり、RF式CO2レーザーでも同様です。また、CO2レーザーには必ずエンドミラーと出力カプラーミラーがあり、共振器として機能することで、レーザービームが形成されます。

CO₂レーザーでは、エネルギーの伝達を担う分子は、バネのように伸縮する原子で構成されています。CO2分子は、炭素1つと酸素2つの計3つの原子で構成される「三原子分子」です。一方、窒素分子は、2つの窒素原子からなる「二原子分子」です。レーザー発振は、エネルギーの供給から始まり、窒素分子の励起を経て、CO2分子へのエネルギー伝達によって進行します。まず、DCレーザーでは電極に高電圧を印加し、RFレーザーではアンテナを制御して電磁波を発生させることでエネルギーを供給します。エネルギーの供給方法は異なりますが、一連のプロセスはDCレーザーとRFレーザーのどちらでも共通しています。
DCレーザーのメリット
DCレーザーの加工機のメリットのひとつは、水冷式であるため、稼働音が非常に静かな点です。また、水冷式はレーザーの温度を一定に保つため、耐用年数が大幅に延びます。DCレーザー管の平均耐用年数は約2年であり、RFレーザーと比較すると比較的短いですが、初期投資費用が低いこともDC方式の利点のひとつです。RFレーザーと比較するとレーザー光の品質は劣りますが、布地、皮革、フィルムの切断が可能です。考慮すべきデメリットとしては、定格出力の20%以下で使用する場合、DCレーザーでは信頼性の高い制御や発光ができないことが挙げられます。 この点では、現行世代のRFレーザーが明らかに優れており、約2%から100%という高い直線性出力を実現しています。
RFレーザーとは
RFレーザーでは、アンテナを制御して電磁波を発生させることでエネルギーを供給します。励起周波数は通常86MHz~48MHzの範囲にあり、無線周波数の振動によって窒素分子が励起されます。DCレーザーに比べ、RFレーザーははるかに高い繰り返し率で動作できるため、各コントラストピクセルに1回のレーザーパルスを照射するだけで、高速な彫刻やマーキングが可能です。また、レーザー共振器が酸化アルミニウムセラミックで設計されている場合、この材料は励起周波数に対する特性インピーダンスがほとんどないため、低損失で効率的に励起できます。さらに、アンテナが共振器の外に配置されていることで、共振器内部にガス不透過性を損なうような貫通部を設ける必要がなく、構造的な安定性も向上します。
RFレーザーのメリット
RFレーザー光源は、高い繰り返し率で動作でき、動作中の出力ドリフトが少なく、さらに優れたビーム品質を持っています。
例えば、紙にマーキングを施す場合は、出力を低く設定することで繊細な加工が可能になります。RFレーザー管の平均寿命は約6年とされており、その後は新しいレーザー光源への交換やアップグレードが必要になります。特にセラミック製のレーザー管の場合、外部からの空気の流入によるガス混合物の汚染がほとんど、または全く発生しません。また、パワーエレクトロニクスの調整(アンテナドライバーの周波数を再調整)や、故障した基板(通常はパワーアンプの故障)の交換を行うことで、元のレーザー出力を回復できるケースも多くあります。
DCレーザーとRFレーザー、どちらが適しているのか
DCレーザーとRFレーザー、どちらが適しているのかは用途や求める条件によります。初期コストを抑えたいのであれば、DCレーザーが最も安価な選択肢です。しかし、DCレーザーは約2年で交換が必要になるのに対し、RFレーザーはその約3倍の寿命があります。そのため、長期的に見ると、コスト差はそれほど大きくないかもしれません。
耐久性にこれほど大きな違いがあるのは、レーザー管に使用される素材の違いによるものです。DCレーザーは比較的壊れやすいガラス管を使用していますが、RFレーザーは金属やセラミックで作られており、はるかに頑丈です。
また、初期コストだけでなく、レーザーを使用する目的も重要です。精度の要求がそれほど高くない材料を頻繁にカットする場合は、DCレーザーが適しています。特に、縁の広がり(カット幅)が問題とならないテキスタイル業界では、低コストのDCレーザーが有効に活用されています。一方で、DCレーザーは寿命が短く、予測不能なダウンタイムが発生しやすいため、自動化された生産ラインには適していません。

木材の精密ブランキング加工による実際的な影響
RFレーザー(左)は高いビーム品質を持つのに対し、DCレーザー(右)はビーム品質が低く、その結果としてカーフ幅が大きくなり、煙の発生も多くなります。この違いは、DCレーザービームに見られる楕円形状(頻繁に発生する現象)によるものです。また、DCレーザーでは垂直方向のカーフ幅が水平方向よりも大幅に大きくなる点も特徴的です(右)。
RFレーザー:約2%から100%までの出力を安定して再現できるため、医療業界や化粧品業界での繊細な彫刻に欠かせません。特に低出力範囲では、レーザー出力を用途に応じて細かく調整し、最適に制御することができるので、極めて精密な彫刻が可能になるほか、不要な体毛を簡単かつ痛みなく除去することもできます。